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[イベントレポート] RAKSUL✕Mobility Technologies 産業DXを加速させるPdMとは?

「ビジネスパートナーと信頼関係を築くこと」産業DXを加速させるプロダクトマネージャーの条件


プロダクトマネージャー(以下、PdM)の必要性について語られる機会は圧倒的に増えてきました。しかし、具体的な役割は明確化されておらず、業界全体で模索しているような状態が続いています。

今回のオンラインイベントには、印刷業界のDXを推進するラクスルとタクシー業界のDXを推進するMoTから、2名のPdMが登場。「産業DXを加速させるPdMとは?」というテーマで語られたパネルディスカッションの様子をお届けします。

【出演者紹介】

水島 壮太 (Sota Mizushima)
ラクスル 取締役/CPO
IBMに入社し、Javaアーキテクトとして金融系システム開発などでキャリアを積んだ後、DeNAに転職。Mobageオープンプラットフォームのサードパーティ向けグローバル技術コンサルティング部門の立ち上げを行ったのちに開発部門へ。
2017年10月よりラクスル株式会社に参画し、現在は取締役CPOを務め、ラクスル事業のプロダクト開発を指揮。2021年より⼀般社団法⼈ ⽇本CPO協会理事、デジタル庁CPOも兼任。

黒澤 隆由 (Takayuki Kurosawa) 
Mobility Technologies 執行役員/プロダクトマネジメント本部 本部長
製造業のエンジニアとしてキャリアをスタートし、2008年より楽天株式会社にてプロダクト開発に従事。
2018年より株式会社ディー・エヌ・エーにてタクシー配車サービスのプロダクト責任者および全社のプロダクト強化やプロダクトマネージャーの育成にも取り組み、2020年4月よりMoTに転籍。


産業DXのPdMにとってやり甲斐とは?


ーまず、お二人が「産業DX」に取り組む意義からお聞かせください。

水島:私の場合は「印刷業界の遅れている部分をどうにかしたいから」ですね。

海外と比較すると、日本の印刷業界におけるDXは格段に遅れています。国内商業印刷&事務用印刷市場においてネット印刷の占める割合は3〜4%なのに対し、ドイツでは50%ほどを占有しています。この現状をチャンスと捉え、遅れを取り戻すことが今のモチベーションですね。もしかしたらタクシー業界も一緒じゃないですか?

黒澤:おっしゃる通りですね。そもそもDXが遅れている業界は、長い歴史の中ですでに社会インフラとして重要な役割を担っていることが多く、自らリスクをとって変革を起こしづらい。だからこそ私たちのようなプレイヤーがお手伝いできることはたくさんあると思っています。

日本のタクシー業界に目を向けると、実はすでに非常にUXが優れたオンデマンド移動プラットフォームでなんですよね。いつでもどこでもタクシーに乗り込んで「とりあえず出してください」と言えるUXはすごいことですし、類を見ない。私たちの手がけるタクシーアプリ『GO』をきっかけにDXを推進し、皆さんの生活が目に見えて快適になっていく過程を見届けられることはすごく幸せですし、使命感にも繋がります。

ー一方、今はまさにSaaS全盛の時代と言われています。SaaSと比較して、ラクスルやGOのようなBtoBtoCのサービスにおけるPdMの特徴は?

水島:前提として、ラクスルではBtoBtoCだけではなくSaaSのサービスも手がけています。

一般的にSaaSはソフトウェア自体に課金してもらうモデルですが、BtoBtoCはそれだけでは成り立たないんですよね。どれだけソフトウェア自体が便利でも印刷物の出来が悪かったらリピートすることはありません。つまり、BtoBtoCはサプライヤーの品質管理もきっちりやらなくてはいけないので、PdMの役割も多岐にわたります。

そしてその前後にあるオペレーションの複雑さがDXの足枷になっています。SaaSの開発、サプライヤーの品質管理に加えて、サービスを利用する際の複雑なオペレーションをなめらかにしていくこともラクスルのPdMの役割です。

黒澤:いずれにしても、私たちの事業は既存産業ありきなので、いわゆる“破壊的イノベーション”で進めようとしてもうまくいかない。常に産業全体の発展に寄与する前提に立って考えていく必要があります。産業DXのポイントは、「いかに既存産業のビジネスパートナーから信頼を得て共闘していけるか」。印刷もタクシーもすでに素晴らしい価値を提供しているわけです。その上でサービスの品質を担保しつつ、付加価値を提供するのが私たちの存在意義なので、そのあたりは汗をかくポイントだと思います。

水島:おっしゃる通りですね。ですから、ビジネスパートナーとの信頼関係構築は事業においてすごく大事になってきます。

ーお二人にとって、産業DXに携わるやり甲斐は?

水島
:やはり顧客からプラットフォームの価値を認められたときですね。ラクスルはデマンドサイドとサプライヤーサイドに顧客がいらっしゃるのですが、双方から「ラクスルのおかげで仕事が増えて経営が安定しました」「今まで非効率だったけれど、うまくいくようになりました」といった声を聞くと、成果を実感します。

ただ、印刷産業自体の規模が巨大なこともあり、大きな変革はもたらせていないのが実情です。DXに前向きに取り組んでくれている一定の層にしかリーチできていないので、早くもっと大きく成果を実感できるところまで進んでいかなければいけません。

黒澤:DXによってユーザーサイドの利便性が向上すること、toCへの貢献は当然あるし、産業自体のさらなる発展にも貢献していくことができる。MoTでは「全方良し」というバリューを掲げているのですが、ユーザーとタクシー業界の双方の発展に寄与していくことは楽しいですし、その結果として、多くの人のライフスタイルや都市の形ですら、より便利で快適なものに変えていけると信じています。

産業DXに限った話ではないのですが、個人的にはBtoBtoCのプロダクト開発自体すごく楽しいです。大抵の課題はtoB側かtoC側のどちらかにシワを寄せてしまえば意外と簡単に解決できてしまうことが多いのですが、結局サステナブルじゃないし、PdMとしての個人的なポリシーにも反するので。バランスをとりながら、「全方良し」を目指していく設計のプロセスに面白さを感じます。

ラクスルとMoTが見据える未来


ー各社、ネクストチャレンジとして捉えているところは?

黒澤:コロナ禍で人の移動は制限されていますが、GOの配車は拡大しています。理由として「限られた外出の機会は安心安全に過ごしたい」というニーズが考えられるのですが、この手の利便性・快適性は不可逆だと思っていて。ですから、GOのユーザーに向けてはもっとこだわった移動体験を提供したいし、さまざまなワガママにも応えていきたいと思っています。

ただ、ワガママに応えれば応えるほどにユーザーとタクシーのマッチング効率は下がり、結果的にUXが悪化してしまいます。そうならないように、効率的なマッチングを実現し、UXを担保していくことが私たちのチャレンジですね。

新たな取り組みという視点では、ユーザーの裾野を広げて、新たな市場をつくっていくこと。個人的には都心だけではなく、地方への展開の可能性も検討できる「あいのり」や「乗り合い」のようなサービスにもチャレンジしていきたい。他にもEV車両や自動運転車両の社会実装などを通じて、人にも環境にもやさしい都市の実現において重要な役割を担っていきたいですね。

水島:ラクスルにおけるチャレンジの仕方は2つあります。

1つは、まずTAM(Total Addressable Market)を広げていくこと。もともとラクスルは商業印刷の中でもチラシや冊子の市場からスタートしていますが、産業全体が何兆円規模だとすると、プロダクトとしてカバーできている領域は数千億円規模に過ぎません。先日ダンボールワンという段ボールや梱包資材のECを展開している企業を完全子会社化しましたが、まだまだ余地は充分にあるので、プロダクトがカバーできる領域をどんどん広げていきたいですね。

ただ、印刷業界にもさまざまなセグメントがあって、要件もプレイヤーも全て違います。困難に直面することも多いですが、UXをちょっとずつ変化させながらターゲットに一番刺さるプロダクトをつくっていきたいですね。これからも共通点と相違点を踏まえて戦略とプロダクトラインナップを考えて攻めていく戦い方をしていくので、PdMは常に足りないような状況です(笑)。

もうひとつは、「顧客をピボットする」というやり方です。ラクスルはSMBからスタートして、最近はエンタープライズに登ってきていますが、ノバセルは大きい市場から入って小さいところでもテレビCMが打てるようにSMBに降りていきたいと思っていますし、ハコベルは最初は個人事業主のトラック運転手からスタートしましたが、徐々にエンタープライズに登ってきています。つまり、顧客のセグメントを変えてきているわけです。

当然SMB向けの要件とエンタープライズ向けの要件は全く異なるので、みんなでヒーヒー言いながらハイグロースとその先にあるトップラインを目指しています。

黒澤:拡大していくにあたってコンフリクトを起こしてしまうようなことはあるんですか?

水島:めちゃくちゃあります(笑)。重複することもありますし、2つの事業で同じ方向性を探っていたこともありました。そのあたりはCPOである私が「横のシナジーをつくるべきでは?」「一緒にやったら?」とガバナンスを効かせなければいけない部分だと思っていますが、なるべく現場の熱量の高い人たちに任せたい気持ちもあり、バランスを見ながらコミュニケーションをとっているところです。

PdMよ、現場へ赴け!


ー続いては、事前アンケートでいただいた質問にお答えください。ずばり、産業DXにおけるPdMに求められるものとは?

水島:SaaSも含めたプラットフォーム系のプロダクトであれば、デマンドサイドとサプライヤーサイドの両方への理解を深めて解像度を上げておくことですね。そのためには現場へ足を運んで、根気強く産業自体のオペレーションや業務内容を見てドメイン知識を習得しておくことが重要。私もよく印刷工場やサプライヤーさん、ロイヤルユーザーさんのところへ足を運ぶのですが、そういう動きが推奨される仕事だと思います。

もう少しスキルに寄った話をすると、複雑なものをシンプルにする力ですね。印刷業界に限った話ではないかもしれませんが、既存産業のオペレーションはものすごく複雑なので、シンプライズするように要件をまとめられるか、もしくは拡張性を持たせていくために切り口を入れる勘所がある方の方が向いていると思います。

ー現場に足を運ぶことを難易度が高いと感じる人もいるかもしれません。

水島:営業支援とは全くの別物なので、そこまで物怖じしなくていいと思います。むしろ、サプライヤーのニーズやペインを自分の目や耳で確認できるので、プラスしかない。現場へ足を運んだ経験の有無で、PdMとしての働き方は大きく変わると思います。

私自身は、ラクスルにはマネージャーとしてジョインしたので、あまり現場には行けていないので、実際に足を運んだメンバーの話を聞いてうらやましいぐらいです。逆に「人とのコミュニケーションが苦手です」「エンジニアとデザイナーしか会話できません」というタイプの方だと、この業界では難しいかもしれません。

もうひとつ、産業DXにおけるPdMに求められるスキルは、なるべくスケーラブルにローコンテクストに落とし込んでいく能力ですね。プロジェクトチームはハイコンテクストになりがちなので。いつでもすぐにオンボーディングできるような体制を整えていけることはかなり大事だと思います。

ー黒澤さんはいかがでしょう?

黒澤:先ほど水島さんがおっしゃっていたシンプリファイはすごく納得できます。たとえばタクシー事業者さんや乗務員さんに使ってもらうアプリはシンプルな方がいいし、運転中に使うものであればなおさらです。そのためにも水島さんがおっしゃっていたように現場へ足を運ぶことはすごく大切です。最近はコロナ禍でなかなか行けていませんが、以前は私もタクシーの助手席に乗せてもらいながらインタビューしたことがありました。

PdMという職種に少しフォーカスすると主に3つ。

1つ目は、ビジネスパートナーからの要望も含めて声の大きさだけに左右されずに開発優先度を判断できる能力です。目の前の事象だけに捉われずに一定の視座を保ってプロダクトのあるべき姿を追求できる素養というか。

続いて、2つ目。特にオフラインとオンラインが密接に連携することで成り立つプロダクトはゴールに到達するまでに必要となる時間軸も長くなる傾向があるので、課題解決に泥臭く向き合える胆力みたいなものの必要性も感じています。

何事もそうだと思いますけど、目の前に立ちはだかる壁を打ち破るのに必要なことは本当に地味なことの積み重ねなんですよね。だから、胆力を持って向き合うことは重要ですし、だからこそ社会を前に進めるような変革を起こせるわけです。PdMという職種だけではないかもしれませんが、産業DXに関わるのであればなおさらです。

3つ目は、少し抽象的なのですが、現場での使われ方を想像しながら手触り感を持ってプロダクトを設計できるセンスです。必ずしも左脳的なアプローチだけではなく、右脳的なアプローチも必要になってきています。

私自身偉そうなことを言いながらも実際にリリースしたら「またやっちゃった」みたいなこともありますが、、気づきあればそれをもとに改善すればいいわけですし。だからこそMoTでは社内でのPRDレビューなどはかなりしっかりやっていますね。

水島:PRDレビュー、いいですね。うちもやるように指示を出してみようかな(笑)。

黒澤:是非是非。

ビジネスパートナーと真摯に向き合うこと


ー先程の話に戻りますがドメインを理解するスキルが高い人の特徴はあると思いますか?

水島:手前味噌ですが、私は結構自信があるんですよ。

私のようにエンジニア出身であれば、ソースコードと業務の話をマッピングしながら理解していくと「こういう業務があるから、こういうシステムが必要なのか」とドメイン知識を深めていくことができると思います。特に必要な情報を直感的に集めながら自分の中でドメイン知識を構築していける方は、相当理解が早いのではないでしょうか。

あとはコミュニケーション力ですね。もしゼロベースで開発する場合でも、書籍から情報を仕入れることはできるけれど全て読むことは現実的ではありませんし、「これどうなっているんですか?」と教えてもらった方が早いので。

黒澤:わからないことを素直に聞けるのは、ドメイン知識に関わらず基本中の基本ですね。

繰り返しになってしまいますが、私は先ほど水島さんがおっしゃったシンプリファイがすごく重要な要素で、エンジニアやプロダクト開発に関わるすべてのメンバーに共通するところだと思います。複雑なことがあっても本質を見出し、スッと整理できる人は、何事も理解が進みやすい。ものづくりに携わる身としては、すごく重要なスキルだと思います。

ー続いての質問です、ビジネスパートナーとの信頼関係のつくり方について、工夫していることがあったら教えてください。

水島:ラクスルの場合は、サプライヤー専門のBizDevがいるので、彼らがリレーションをつくってくれています。もちろん経営陣もトップ同士で関係性を構築しているので、PdMとしてできることは開発チームに閉じこもっているだけではなくサプライヤーサイドの開発の際に現場へ足を運んで、コミュニケーションを取りながらフィードバックをもらっていくことが大事なように思います。

黒澤:同意ですね。GOに関していうと、ビジネスパートナーに対して本気で向き合うビジネスサイドのメンバーがいますし、PdMはPdMで必要なヒアリングを実施しながら改善を進めています。地道に真摯に向き合っていくしかないと思っています。

水島:本当にそうですよね。プロダクト担当としてパートナー営業や渉外担当と一緒に外へ出て、向き合っていくことが大事だと思います。

ー最後の質問です。DXを進めていく上でビジネスパートナーの協力は不可欠ですが、経営者や担当の方が年齢を重ねていたり、専門分野でなかったりすることで理解が難しい場合は、どのような工夫をしていますか?

水島:どうしても最初はDXへの理解があって比較的攻めの経営をしているサプライヤーさんだと組みやすいですよね。そういったビジネスパートナーとスタートして実績をつくって、少しずつ拡大していくしかないと思います。「技術的な話がわかる・わからない」はそんなに大きな問題ではなくて、「一緒によくしていきましょう」という姿勢が大事なのではないでしょうか。

黒澤:最初に組んでくれたパートナーさんにいいことが起き始めると、最初は懐疑的だった事業者さんも理解を示してくれますからね。とにかく真摯に向き合うことが、産業DXを進めるコツだと思います。

ーありがとうございます。真摯に向き合いつつ、一歩ずつ共に歩みながら実績を出すということですね。では、最後にひと言お願いします。

水島:冒頭でもお伝えしましたが、日本国内のネット印刷市場は、海外から大幅な遅れを取っています。私たちにとってはチャンスでもあるので、我々のオブジェクティブに向かって取り組めるような方にお越しいただきたいですね。

黒澤:イノベーションをリードし、真に世の中をより便利に快適に変革していくことはチャレンジングですが、間違いなくやり甲斐はあります。日本の産業DXを推進し、ジャパンクオリティを押し上げていく仕事に興味をお持ちいただけた方がいれば、ぜひお話ししましょう。


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